2017/02/28

波は二度と帰り来ぬかのようでも

いつからか
遠い遠い波の音となった
古ぼけた記憶の耳鳴りよ
鳴り止むこともなく

海がせつなくてたまらなくなったのは
いつからだろう

あの暑い夏の日
海に連れていってくれた父は
もういない
あの強烈な陽射しに焼かれ
笑っていた三人の子供
あれは
本当にわたしたちだったのだろうか

あの海はここにはない
わたしたちが見ていた海は
どんなに晴れた日でも
暗く深い色をして
気を抜くと波にさらわれ
岩に打ちつけられる
強く厳しい海だった

見えるはずもない海が
このあたたかい大らかな海にかさなって
眼の前が突然
暗くなる
真っ黒い緞帳が下りるように

たまらず
眼をつぶる

波は生まれ
消えていく
ひとつひとつは
すべて消え
また生まれる

生まれて来たものはすべて消え
また新しく生まれる
ひとつが特別でもなく
ひとつが無意味でもなく
すべて消え
すべて生まれる

すべては海から生まれ
海に帰っていくのだろう
山々の豊かな水も川も
木々も生き物も
すべては海にそそがれる

もどっていくのだ
ひとつとして帰り来ぬ波となって
消えてはまた
生まれていく

果てしなく永遠のように
消えては
生まれていく



夏の日の思い出は遠く


子供の頃、父は大変な子煩悩だった。夏休みの日曜日は必ずどこかへ
遊びに連れて行ってくれた。母が作ったお弁当を持って、朝早くから車で海へ向かった。
暑い夏の日。

泳げもしないくせに、海辺で波を追いかけるのが大好きだった。
姉弟三人で、犬のように戯れた。
ある日、日本海の強い波に流され足を取られた姉が、鋭い岩肌で足を切った。
楽しい空気は、一変した。

父に応急処置をしてもらい、姉は怪我した足に片方だけズックを履いた。
わたしと弟は姉が心配で、すっかりしょげていた。
自分が怪我したかのように、足がすくんでへたりこんでいた。

その時だ。

姉が、ふたたび荒れた波に向かって、走り出した。
振り返って、浮き輪を持っておいでというように、わたしと弟に手を振った。
弟は急に元気を取り戻して、笑いながらわたしを見た。わたしも笑った。

姉は足が痛かっただろうと思う。
元気に遊んでくれた姉の心のうちなど、まだわかるはずもなく
わたしと弟は一緒に遊んだ。
無邪気と言えば無邪気だけれど、本当に幼かった。

その姉の深い思いやりは
今も変わらず、わたしと弟を見守りつづけてくれているのだ。
姉は子煩悩だった父にも、よく似ている。
夏の日のことは、父が亡くなってからよく思い出すようになった。

いつか海にかえるのもよい、と思う。
そのいつかを心配したところで、どうなるものかはわからないけれど
自分もまた自然の一部であると思えば、気持ちがかるくなる。
できれば、あの日本海にかえっていきたいと思う。
三人が笑っていた、あの海へ。






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/27

お姫様にはなりたくなかったけど

それは
見たこともない洋服だった

水色のレースの生地のワンピースは袖なしで
胸のことろで切り替えが入れられ
チュチュレースを重ねてたっぷりとギャザーを寄せ
ドレスのようにふくらんだスカートへとつながる

共布のボレロは
襟ぐりも短い裾も丸く縫いこまれて甘く
胸元は金の鎖で留められている
ワンピースと重ねると
すっきりしたウエストからスカートのギャザーを
いっそう豪華に引き立てた

まるでお姫様のドレスみたいな洋服は
すとんと細い長いシルエットのものと
ずんぐり横幅が広い短いものと
お揃いでふたつ

細くて美しい方は姉のため
ずんぐり不恰好なものはわたしのため
母が愛情込めて縫ってくれたものだ

母は姉とわたしに
二人お揃いの洋服を毎年
母の実家へお盆の里帰りをする時までに
はりきって手作りする
いつもきまって
お姫様みたいな上品な甘い洋服

レースやビーズ金の鎖
刺繍や花模様のコード
なにかしら手が込んだ手仕事をくわえ
見た人がみんな
まあ素敵!
となるような洋服ばかりを
せっせと作り上げるのだった

その水色のボレロ付きワンピースも
とにかく素敵には違いなかった

水色は色白な姉が似合う色だった
いかにもお嬢様っぽいワンピースも
姉の細い体にぴったりで
わたしには似合わない

わたしはまだチビの
ぽっこりお腹のでぶちんで
ブルドッグみたいなほっぺたで
なぜか家族のなかでわたしだけ
肌が赤黒くそばかすだらけだったから
そんな水色のレースは似合うはずもなかった

母はきっと
わたしたちを
いいえきっと姉を
お姫様にしたかったのだ
母はきっと
お姫様になりたい少女だったのだ

わたしは
お姫様にはなりたくなかった

ほんとうは
弟が来ているセーラーカラーのシャツがよかった
それからぶかぶかの半ズボン
冬ならば
赤い刺繍のカーディガンじゃなく
こげ茶色の肘あて付きのセーターがほしかった
プリーツスカートじゃなく
チェックのズボンがほしかった
母には絶対に
言えなかったけど

姉をお姫様にするための
お揃いの洋服を卒業してから
わたしは母にミシンを習った
自分の服を自分で作るためだ
男の子みたいな服を
でたらめにどんどん作っては
母を絶望させた

ごめんね
わたしお姫様にはなりたくなかったんだよ

母はとうとう
わたしをあきらめた

年老いた母が
久しぶりにわたしを見て
かっこいいと言った

急にあのボレロ付きワンピースを思い出した
わたしが母の願いどおりの
お姫様になっていたら?
不意に
涙がこぼれた

ごめんね
お姫様になってあげられなかったよ

母はきっと
いまもまだ自分が
お姫様になる夢をみているんだ
いつかきっと
その夢がかなうと信じているんだ

遠いあの日
わたしたちに重ねた夢よりも
ずっとずっと素敵な夢

その夢が
終わることなく
永遠につづくことを
わたしは泣きながら祈っていた

わたしがお姫様になっていたら?
母の夢をかなえていたら?
仕方のないことを考えて
泣きながら
祈っていた



母と姉は憧れの人


長女や長男に生まれた、初めての子供は、下に弟や妹ができると
それまで独占していた親の愛が、下の子供に向けられることで
初めての感情を覚えて、その嫉妬や憎しみのような感情によって
成長するのだという。

わたしが生まれたとき、姉もそのような複雑な感情に襲われたのだろうか?
聞いてみたこともないけれど、わたしが太ってブルドッグ顔だったにもかかわらず
可愛いと言われるのはあなただけだった、というようなことを言っていて
すごく驚いた。
なにしろわたしはデブの赤ら顔で、お揃いの服はことごとく
わたしには似合わなくて、姉と並んで着ることに引け目を感じて暮らしていたから。

そして、生まれて初めて会った子供が姉で、初めて遊んでくれたのも姉だったから
何でも姉の真似をしようとして、まったくうまくできず挫折しては
ひたすら憧れるという存在になっていた。
もちろん、手が器用で美しかった母は一番の憧れの人だった。
でも、自分は母や姉のようにはなれるはずもない、と区別していた。
それくらい、わたしは劣等感にどっぷりだった。

お姫様テイストな洋服は、自分が着ても似合わないことが
はっきりわかったので、その後の好きなもの嫌いなものを振り分ける感性は
幼い頃、猛烈に似合わなかった姉とのお揃いの洋服のおかげでもあると思っている。

そもそも姉妹であるからには、はたからみたらどっちもどっちであっただろうが
わたしはデブで、真っ赤なブルドッグ顔だったおかげで
可愛いなんて言ってもらったんだろうな、と思っている。
夢のドレスのようなお揃いの洋服は、残念ながら田舎のいとこたちにまわって行って
一枚も手もとには残っていない。

あの水色のボレロ付きワンピースを思い出すと、泣きたいような気持ちになる。
母もまだ、憶えているだろうか?と。





猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/26

笑う

わたしが笑ったら
あなたも笑ってくれるかな
目をほそめて目尻にしわがよるくらい
満面の笑みで
たったそれだけで
笑ってくれるだけでいい

むずかしいことも
苦しいことも
悩みも
今日はそっと
どこかに置いといて
笑う

笑ったら
頭のすきまが
笑ってることでいっぱいになって
さっきまで
むずかしいと思ってたことや
苦しいと思ってたことや
つらかったことや
悩んでたことなんて
あっというまに追い出せる
ただ笑ってるだけのわたしになって
これがいいじゃない?って思える
とりあえず今日はこれでいいんじゃない?って
明日を待てる

たのしい話も
おいしいご飯も
山盛りアイスクリームも
笑ったらたのしい
笑ったらおいしい

人生はつらいって言って
苦虫を噛み潰してがんばって
悩みで頭がぱんぱんで
先のことばっかり考えてたら
そろそろ先が見えてきたらしい
それでも
どうにもならないことばっかりの
批判されてばっかりの
役に立たない自分がいて
それなのに
こうして笑っている
それでもいつか
ゆるしてもらえるかな

信じたことは完璧じゃなくて
夢見たことはどうやら
かないそうもなくて
できないくせに心がはやって
心臓はばくばくで
いつもあせってばっかりいたら
とげとげしてひねくれて
また閉じこもりそうになった

せめて今日は
笑ってみる

鏡のなかのしょんぼりした自分に向かって
とりあえず
笑う

明日また朝が来たら
朝の日差しのなかで
笑おう
それからまたひとつひとつのことを
最初から始めよう
いつかこんなわたしでも
ゆるしてもらえるように
笑おう



わたしにできること


いつも喜んでいなさい、という聖書の言葉があります。
不機嫌は、重大な罪だというのです。
どんな困難にあっても、明るく笑って、喜んで生きなさいという。
けれど、母の看護で苦労をかけてしまっている姉や弟を思うとき
役立たぬ自分は、笑うこと、喜ぶことがあっていいのか、と思ってしまうのです。
変えられない現実があって、自分ではどうしようもないとき
身を削るように自分を追い込み、自分を責める。

本当は、誰よりもわかってほしい人、誰よりも喜んでほしい人。
よい報告ができるようにと頑張ってきたはずの、これまでの時間。
母にも、姉にも、ただ申し訳ない気持ちでいっぱいで
ひたすら、自分にできることを一生懸命することしか、できません。

くたくたになって一日が終わる頃
母も安らかに眠りについて
姉も無事に家路につき、からだを休めているようにと
祈りながら過ごします。
鏡のなかの自分に笑いかけて、今日を報告します。
明日も頑張りますから、こんなわたしを、お許しください、と祈ります。

母も姉も、笑っていてくれますように、と祈ります。





猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/25

おそれる

見えなかっただけで
知らなかっただけで
それはめんめんとつづいていたんだ
最初の最初からね
だから
いまさら苦しんだり
いまさらのように絶望するようなことじゃないんだ

見て見ぬふりをして
通り過ぎればいいだけのこと
そう
ついこのあいだまでは

見てしまったけれど
見て見ぬふりをしたら
それはこれからもえんえんとつづく
すべてが壊れてしまう

あの空の果て
謎めいた見知らぬ暗黒につつまれて
ごく小さい
けれどたったひとつのこの場所は
すでにこんなにも破綻している
地球を守ろうなんて言ってるくらいにね
もう気が遠くなるくらい破綻している

それでも見て見ぬふりをして
考えてないふりをして生きてきた
そうしなければ生きていけない気になるくらい
破綻していたんだけど
無責任に知らんぷりしてきた

アイデンティティーとか言いながら
自分のことばっかりのすり替えで
今日の自分は
昨日の自分でもなく
それでも自己同一性なんて言っては
利己主義にこんがらがっているんだ

でももう気づいたからには
始めたからには
繰り返してつづけていかなくてはならない
知ってしまったからには
二度と繰り返してはならない

見えなかっただけで
気づかなかっただけで
それはずっとつながっていたんだ
いまのいまもね

あの暗黒に果てなく無数の眼があって
常に見張られているんだろう
あの眼をおそれて
上なるものをおそれて
びくびくと小さく生きていくべきなんだろう
持たない者に生まれてきたからには
何ひとつも持たず
小さく小さく生きるべきなんだろう
このわたしは

星ぼしが見ている
暗黒からいまにもこぼれ落ちそうに近く
わたしを見ているんだ
この恐怖を
ちょっとだけ知らんぷりして
ひたすら小さく生きる
恐ろしいほど破綻してるらしいここで
せめてはすべてを小さく生きる

すべてを知ることはできないから
すべてを見ることはできないから
知ってしまったこと
見えてしまったことは
もうなかったことにはできないから
こうして
小さく小さく生きていくんだ
始めてしまったからには繰り返して
ずっとつづけていくんだ
気づいてしまったんだから後には引き返せない
もう二度と
繰り返してはいけないんだから



今日できることをする


何のために自分は生きているのか、を瞬間瞬間考えずには生きていられない。
父母が病に倒れ、父が亡くなり、母の看病を姉に委ねて、自分の役立たなさに
日々ひとり悶々としています。
思うにまかせぬことだけでなく、素直にもなれずに
自分の気持ちを伝えることすら、できなくなっています。愚かです。

環境や心身の弱さや、たくさんの問題を考える度、生活は小さく、簡素に
つましいことをよしとして生きてきました。
やがてどこで果てるのか、と思い、むなしくなることもあります。
空を見上げれば、星が輝き、あの空へとつながっているのだ
と胸は痛みます。

祈りのような、繰り返しの日々。
こんな小さな自分に生きる意味を与えてくれる、上なる者をおそれて
毎日を、小さく小さく生きています。






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/24

集める

もう闘うのはやめたよ

そう言って
あなたは晴れやかに笑った
わたしがあなたにあげた軍服のようなコートを着て
ポケットに両手を突っ込み
照れくさそうに肩をすくめた
夏みたいな五月の空の下

あの軍服のようなコートのボタンを取って
花のかたちをしたガラスのボタンを付けた
花を愛する友のために

軍服のようなメタルのボタンは
わたしの手のなかに残った
いつしか錆びれて
兵士の勲章のように鈍色に変わっていた

もう闘わなくていいよ
どうしてそう言えなかったんだろう

重い硬いコートはもう
あなたにはいらなかった

あなたの残したボタンは
まだ眠らない
傷ついた兵士の勲章のように
わたしを鼓舞する

けれどもう
闘いは終わったのだと告げる
あなたは病と添い寝をして
やすらかな寝息をたてて
花を育てる夢を見た

もっとはやく
花のかたちをしたガラスのボタンを見つけていたら
もっとはやく
あなたを無言で励ましてしまう
あの軍服のようなコートから
この勲章みたいな
いかついボタンを取り払ってあげていれば

あなたに軍服は似合わなかった
闘ってほしかったのは
軍服が必要なのは
わたしだった

ガラスの花たちはもう
あなたのお気に入りのものたちのなかで
やすらかに眠っているだろうか
あなたがわたしに残したボタンは
まだ眠ることを許されず
鈍色に錆びれながら時を待つ

父の形見の帽子に
この兵士の勲章のようなメタルのボタンを
ひとつ縫い付けた
すっかり錆びれ果てた鈍色の勲章だ
闘いは
最初からなかったのに
勲章なんかいらなかったのに

ぶかぶかの帽子に
つよい風が吹き抜けていった
飛んでいきそうな帽子をしっかり押えて
行進さながらに闊歩する
あなたみたいな早足で

もう闘うのはやめたよ

あなたの声が通り抜けた

また春が来る
集めるでもなく集まったたくさんのボタンのなかに紛れて
勲章みたいなボタンも
ひっそり
春を待っていた



友と過ごした大切な時間


よいこともわるいことも、何でも話せる友がいました。
大らかで人に優しく、自分のことよりも相手の身になって考えてくれる
立派な女性でした。突然の病が発覚した時ですら、わたしがショックを受けないようにと
落ち着いて話してくれたことが、まだ昨日のことのようです。

その時、本当のことを推し量れずにいた自分を、まだ後悔しているのです。
家族や友人のために、病と闘ってくれた彼女は、本心ではどう思っていたのか
今でもまだ考えてしまうのです。
残された者たちは皆、随分と年を取りました。
花が大好きでたくさん花を育てていました。愛する夫と息子と、花たちより
一足先に旅立った彼女は、勇敢で旅する人でもありました。

どこか知らない国を旅しているでしょうか?
わたしにおしえてくれているはずです。
きっと、わたしの力となってくれているはずです。

どこからか、いつのまにか集まってきた沢山のボタンの、ひとつひとつに
ちいさな思い出があります。
軍服のようなコートのメタルのボタンは、彼女の勲章。
いつまでも思い出には変わらず、わたしの隣で、一緒に今日を生きています。







猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/23

洗う

なんとちっぽけなわたしだろうよ
こんな一握りの米で生きているのだから
たった一握りの米を炊く
この繰り返しが一日三度
唯一の生きる証みたいにして暮らしているのだから

ほんとうに
情けないほどちっぽけなわたしだろうよ

ていねいに手を洗い
古びた鍋を洗い
それから米を洗う
そうっと洗う
注意深く
ただの一粒もこぼさぬように

ほんの一握りにもかかわらず
こうしてわたしの全身を養っている
なくてならない日々の繰り返し
けれどもやっぱりちっぽけな営みだ

ちっぽけなわたしが食べるわずかの米に
たくさんの魂がこめられていて
ようやくここに届けられたことをおもえば
ただもうしわけなく
命をつなぐぎりぎりの分を取り分け
こっそりと洗う
鍋底に薄く均等にひろげ
水を張り火にかける

一握りの米といっしょに
ちっぽけなわたしも洗われるようで
いっしょに鍋底にひろげられ
よい火加減で順当に炊き上げられていくようで

日に三度まるで儀式のように
わたしを正し整える
しずかにこっそりと洗われて
わたしをゆたかに栄養する

姿の見えないたくさんの魂がこめられた
すがすがしい米を一握り洗う
しずかにこっそりと洗う
ちっぽけなわたしもいっしょに洗う
そうしてこのちっぽけな命ですら
生きていていいのだというように
米は水のなかで
いよいよ輝く

なんともちっぽけな
情けないこのわたしのために



生きること


生きることが、つらくなることが何度もありました。
心の弱さのせいで、つらいことから逃げだしたことも、一度や二度ではありません。
今も、本当はきちんと伝えなくてはいけない感謝の気持ちを
伝えられずに、臆病な自分に閉じこもっているのです。

食べることは生命を維持するのに直結しています。
自分のようなものが、生きていていいのかという疑問があります。
いつもその考えが大きくなっては、食べるという行動に影響を与えます。

これは幼い頃、一番甘えたい時期に、家族はある困難に見舞われ
母の手を握ったり、そばにいて触れ合ったりということの満足が
十分に得られなかったからではないか
と、ある大学病院の先生に言われました。
わたしは、入退院を繰り返していました。
母もまた、そのことを同じように伝えられました。

二十歳にもなっていたわたしと、道を渡る時
母が手を握ってきました。
あたたかい手でした。
ずっと手を握って街を歩きました。

母は病気をして入院し、弟が幼かったので
わたしと弟は、精神的支えとして、姉を頼りにして暮らしていたように思います。
父と祖父母がいましたので、生活に不自由はありませんでしたが
さみしさや人恋しさは、姉の存在なしには耐え切れなかったでしょう。
今になって思えば、まだ小さい姉の心のうちも
さぞや不安で、さみしかったことだろうと思うのです。

三人で猫の子がくっつくようにして、くっついていた
あのあたたかい記憶は宝です。それから、母の手のぬくもり。
生きていること、食べること。
それさえもきちんとしていれば、いつかまた
必ず、素直な心になって、強い自分になって
安心してもらえるようにと、願って生きています。






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/22

走る

ひとつきりの人生のようでいて
たくさんの知らない顔が隠れている
あなたにも
わたしにも

これ一度きりの人生なのに
気まぐれに
時間の浪費をしては自分をごまかし
いよいよ自分をむなしくする
自分という
よくわからないもの

わたしを走らせるものと
あなたを走らせるものは
どこかでつながっている
先の先の先に見えてくるものを
もうとっくに知っているはずなのに
さもそれを探そうとするかのように
ここを振り切って
走り出す

けれど
まだどこかでは振り切れないものが
自分にとって大事な
本当のことが
まだ隠れているのかもしれない
そう焦るから走るのだ

走って走って走り込んだ先に
いい加減なところがすっかり空になった自分がいて
その時に心に浮かんでくるものこそ
本当のことだと
そう考えるから走るのだ

苦しくてやりきれない時
自分が自分でわからない時
走る
自分でも知らない自分の顔を
心に映して自分に見せつけるために走る

わたしを走らせるものと
あなたを走らせるものは
どこかでつながっている
それはどこかで
同じ顔をしてすれ違う
せつなくどこかなつかしい胸の痛みだ

ひとつきりの人生だから
残された時間も見えてきたから
ゴールに向かって走るのではない
焼かれるような思いがあって
追われるような気持ちになって
ここを振り切って
明日を見るために走る
ただ一日を
自分が生きた証として刻み付けるために

一歩でも進むため
自分という
弱くて情けない自分と
まだ知らない自分の顔とを
心のなかに映し出して
明日を生きるために一歩を踏み出す
走って走って
すっかり空っぽになった自分が見るものこそ
本当の気持ちだから
それはもう知ってはいるけれど
走らずにはいられないから
走るのだ

せつなさを振り切って
走り出すのだ





走りたい衝動


ときおり無性に走りたくなる。歩くのもそうだけれど、突然に衝動的に
走りたいという気持ちが、激しい感情になってわきおこる。
かなしみや苦しみに負けて、かといって気晴らしや逃げ込みをしなくなった自分が
至らない不甲斐ない現実を、いっとき振り切るために、精神がそうさせるのかもしれない。
精神の安定をはかれるものは、一時しのぎの気晴らしや現実逃避ではないと
わかってしまってからは、わたしには走りたいという衝動が度々起きる。

走ることがままならない時には、詩や文章のなかで
自分の知らない自分を見つけようとしている。
空想に過ぎない、これもひとつの逃げ込みかと思う時もあるけれど
なんとか生き延びていくために、前を向くために、書く。

あなたとすれ違えるように。
どこかで、あなたとつながっていられるように。






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

凍えた両手に
光をすくってみた
まるい玉にして
おおきく吸い込んだ

朝の光が
わたしをあたためた

このまままっすぐ
どこまでも行けば
あなたの待つ場所へつながっている
この道を
けさも歩きはじめた

ひとつはあなたのために
ひとつは天国の人たちのため
ひとつは猫たちに
光をすくっては
玉にしてふかく吸い込んだ

ゆうべのうちによみがえった
細胞のひとつひとつは
光に目覚め
あたたかくわたしをめぐる

朝が来る
朝が来たら
あなたもきっと
こうして光を全身に受け
輝くところで横たわり
夢見心地に
なつかしい記憶をたどっているのだろう

朝が来れば
闇は去り
わるい予感は消え
すべてはあたらしく好ましく
世の中はそうわるくはないものだと思えてくる

光をすくって玉にして
あなたに届けたい
いくつもいくつも
いつまでも
あなたが輝く場所にいられるように
真実のあなたでいられるように
光の玉を届けたい

朝が来た
心あたたかい
冬の朝だ






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/21

愛する

愛の裏側は憎しみではないから
どうかもう泣かないでください
絶対にゆるさないなどと
言わないでください

その美しい顔を
苦痛にゆがめないでください
あなたの愛はどこまでも
ただ愛でしかなく
愛の裏側は決して憎しみではないと
示してくれたのはあなたなのです
泣くのはやめて
そうその笑顔で
そんなにもあかるい
花がひらくようなあなたの微笑みで
わたしを照らしてください

その無垢な笑顔こそ
わたしを慰めるあなたそのもの
どうかもう
すべてのかなしみを投げだしてください

細い体のように
その胸のなかまでかるくして
苦しみもかなしみも痛みもすべて
どこまでもどこまでも深く愛する
あなたの美しい心に
閉じ込めてください

今日わたしは小学生の昔にかえって
あなたに見送られたいのです
わたしの臆病さにあきれたように笑いながら
あなたはわたしを送りだした
小さな心が思い切れぬつらい旅
片時もあなたから離れたくない
か弱いわたしの
初めての旅

あの時のように
わたしを見送ってほしいのです
おどおどしたわたしをあきれたように笑って
だいじょうぶ心配ないよと言ってほしいのです

憎しみを捨て
苦しみを手放そう
かなしみを捨て
痛みを忘れよう
あなたから分けられたものを育み
ふたたびあなたをとおりぬけよう

どうか今日だけは
わたしが死んだと言わないでください
今日は旅立ちの日だから

今日だけはまだ
わたしを消さないで
これきり
二度と会えないかもしれないから

愛の裏側は決して憎しみではないから
それを示してくれたのは
あなただから
いつかわたしをおゆるしください

泣き顔のまま笑っているあなた
いいえ
どうしようもなく苦しい時には
わたしを消してください
あなたの愛に育まれたものだけを残して
心をみたしてください
だから
今日だけは
わたしが死んだと言わないでください
わたしをあなたのなかに残しておいてください
今日
二度と会えないかもしれない
旅立ちの日





愛は意志


愛することは、感情でも情緒でもなく、意志であること。
母より学びました。
しかしその愛情の深さゆえ、苦しみも多くありました。わたしという苦しみもありました。
母の心の平和のためなら、わたしは消えてしまうのも仕方がないのです。

生きることに苦しみがあるのは、人はみな弱いからだと思います。
むなしいからだと思います。
心を愛という意志でつよくしようと、母のように生きようと
日々自分の弱さと向き合っています。

すべてを忍び、すべてを望み、すべてを耐えた
母の愛に心から感謝しています。






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/19

わたしの半分は

いちばん大切なこと

 

あなたにとって、いちばん大切なことは何ですか?
仕事?趣味?家族との時間?
人それぞれに価値観がいろいろで、生活も生き方もいろいろ。
そして現代は生活様式が多様化してきて、以前のようにみんなおおよそ横並びで
ある程度同じような時間の流れ方をする、という時代ではなくなりました。

幼い頃、学校の帰り道、通りに面した家々のお勝手の窓から
煮付けやカレーの匂いがただよって、そこのお家の夕食の献立がわかりました。
そんなのどかで穏やかな時代も、今や遠くなりました。

「ご飯ができたよ」
という掛け声で、家族がいっせいに集まって夕飯を共にする
しあわせな記憶。

ひとりでも、家族があっても、食べるということは大切なこと
生きる力だと思います。


働かざるもの食うべからず

この聖書の言葉が、しばしば引用されます。
これは、働かない人間は食べてはいけない、という意味ではなく
働く意志のない者、動きたくない怠け者は、食べることも積極的にしてはいけない
という戒めです。

しっかり食べてしっかり働け、ということでしょうか?
けっして、無職だったら、あるいは、年を取って役立たぬ存在になったら食べるな
ということではないのは、言うまでもありません。

母が、体が利かなくなる最後の最後まで、こだわっていたことは食事の仕度。
これができなくなった時には、わたしの役割はいったいなんだろうか?
という、せつない問いを繰り返しました。

「毎日ママのご飯があったから、家族みんな健康で元気なんだよ
 ありがとう」
と何度も答えました。
それでも腑に落ちずに、母は何度も何度も尋ねてきました。
執念のような気迫があり、驚きました。
体が不自由でも、人の役に立ちたいという気持ち。
その気持ちが痛いほどわかりました。

人の支えになること、人の役に立つことが、母のしあわせでした。
母がいちばん大切にした、食事を作り食べること。
わたしには母のように、それを子供に伝えるということはかないませんでしたが
自分にとっていちばん大切なことも、食事を作り食べることであり
これは、すべて母のおかげであると、日々感謝しています。

人間には、最後の最後まで与えられた仕事があります。
最後まで生きることと、まわりの人たちに感謝の心で
その気持ちを伝えること。
それを教えてくれたのは、父です。
食べることができなくなって、そこから感謝の心で穏やかに旅立ちました。

食べることは生きること

よく食べてよく生きる

そうすれば、最後の仕事、人生を生ききるということが成し遂げられる。
そう思っています。
わたしの半分は母、そして父。
感謝の気持ちで、毎日食事を作って食べます。
いつか穏やかに最後の仕事を終えるために。



わたしの半分は

 

わたしの半分はあなただから
あなたのように毎日
来る日も来る日も飽きずに
おんなじようなことをして
ご飯をつくって食べています

蒔くことも花を植えることもない
こんな人生はさみしいことだろうと
誰かが言いました

空も水も土もみんなつながっていて
今日わたしが食べた野菜たちも
みんなつながっていて
だから
蒔くこともなく花を植えることもなくても
ちっともさみしくないのです

あなたが言っていた言葉

わたしはどこに根をのばしましょう

あなたのように
子に伝えることはできなくとも
わたしの半分はあなただから
いつかはあなたのように
誰かをやさしくつつむことができる
ふかふかの土のようになって
あなたのところへまいりましょう

わたしの半分はあなただから
なにもおそれてはいないのです
最後の仕事を終えるまで
わたしはあなたのように
今日もおんなじように
ご飯をつくって食べるのです






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村       

2017/02/18

猫が選んだ道を歩く

猫の村からあなたへ


2月3日節分の日から二週間、毎日詩を書いてみました。
最初の日は二つ。
それから昨日までは、一日に一つずつ。

もっともっとたくさん書いて
もっともっと自分の心を素直に自由に表現して、と思っていましたが
いざ書いてみると、素直でも自由でもなく、重苦しい詩になりました。
自分の感情を持て余しました。

その日その日に思いつくままに書いて
推敲することもなく、ろくに読み返しもしないで
そのまま放りだしてしまいました。
そんな詩を読んでくださる、あなたに申し訳なくて
このままだらだらと書き続けていったら、またどんどん暗く重くなってしまうようで
今日からは少し、わたし猫の村の気持ちを文章にしてみようと思いたちました。

本当に今、素直じゃありません。
心に暗幕をかけて、そのうえ重石まで乗っけてしまったみたいに
あきらめていることがたくさんあって
そうしないと生きていけないくらい、自分ではどうしようもできなくて。

みんな自分の努力が足りないからだと、わかっているのです。
そんななかでも、伝えるべきこと、感謝すべきこと、直すべきこと
わかっていてできないと、自分で自分をあきらめて
自分を小さくかためて、内にこもっていたことに気がつきました。

こんなどうしようもないわたしを、見守り支えてきてくれた
大好きで大切な姉と弟に届くような
しっかりと前を向いて生きる詩を書きたいと思ったのに
素直にありがとうもごめんねの一言も、まだ伝えられていないので
自分のなかの暗くて重いところばかりを
ついつい自虐的に、無理やりこじ開けてしまいました。

それなのに、今こうしてこのページを読んでくれる
あなたがいてくださることが、こんなにも力になって
ほんとうにありがたくて
月並みで申し訳ないのですけれど
励みになり希望になっています。

ありがとうございます。
明日からも
心かるく
明るく
いつかあなたの力になれるように
書いていこうと思います。
         猫の村


    

 猫が選んだ道を歩く

猫が不意に振り返って
こっちだよというように歩き出した
ご飯でもお水でもおもちゃでもなく
こっちこっちとせかすように
扉のほうへ誘導する

そのまま
猫といっしょに外へ飛び出して
そのまま猫の選んだ道をわたしも
ずっと歩いていってもいいなあと思った

空が高く
冬晴れの澄んだ空気のなかで
どこまでもどこまでも
あてもなく歩く人生もいいなあと思った

しっぽのアンテナをぴんぴん張って
ヒゲのスケールを頼りに

ちっぽけな人生だから
きっとほんのわずかの時間だから

猫が選んだ道みたいに
道草ばかりで迷っていたっていいなあと思った

そっちなの?

うん
こっちだよ

猫はもう天国にいる
その子を大好きだった父もいっしょだ
歴代の猫たちも
名前もわすれた犬たちも
みんないっしょにちがいない

いつかわたしも
そこに行けるように
迷っても素知らぬ顔で
道草喰って威勢よく
ずんずん歩いていこう
どこまでもどこまでも
歩いていこう

これは正解だ
こっちはまちがいだなんて
猫は決めたりしないから
行き当りばったりの人生もいいなあと思った

目の前の道を鼻をきかして
ちょっとへっぴり腰でも
とにかく歩いていく
猫の選んだ道を歩いていく
道草喰って威勢よく
迷ってもへっちゃらなふりして

ずんずん歩いていこう
どこまでもどこまでも
猫の選んだこの道を歩いていこう






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村       

2017/02/17

喜ぶ

道の角に来て
声がした
聞き慣れた声

途中で怖気づいて引き返すくらいなら
行かないほうがいい
そこで踏んばっているのがいい

自分の声だ
自分でもよくわからない自分が
しかつめらしく忠告する

わたしがわたしである理由は
すでに混沌として
わたしは分裂する
役立たぬことの苦しみにがんじがらめになる

わたしがわたしで生きてよいと
言ってくれる人は
ただのひとりもいなかった

わたしがわたしであることを喜んでくれる人が
この世に
たったひとりでもいるのなら
それだけで人生は喜びに充たされただろうに

わたしは何を喜ぶの?
わたしも理解できぬわたしよ
お前は何を喜ぶの?

あなたは一体
何を喜んで
そうして笑っているのだろう

わたしの喜びは苦しみと相対峙し
苦しみと向き合う孤独の時がわたしを支配し
一歩も前に進めず
じだんだを踏んでいる

喜びは生そのものであって
すべての命に溢れているのに
苦しみに覆い尽くされ
その声は聞こえない

お前は生きてさえいればいいんだよ

風が吹いていた

やがて
心は冴えて
晴々として
嵐のようなこんな風も恐れることなく
綿毛のようになって飛んで行くのだ
心に曇りひとつなく
深々と刻まれた眉間の皺も消え失せ
まるで赤ん坊が笑うような
本能の笑みを浮かべて
したたかに生きていくのだ

日々の単調な明け暮れを
根気強く繰り返し
喜びを育てていこう
すべての喜びは
ただ生きてあること
それを教えてくれたあなたに
役立たぬことを詫びて
わたしはここで生きている

あなたが笑う
赤ん坊のように笑う
その不思議な笑顔に
わたしは充たされた

喜びは苦しみとともに歩いていて
こうしているあいだにも
ふつふつと湧き出しているのに
気がつかず眉間に皺を寄せ
立ちすくんで
じだんだを踏んでいるのだ

わたしは何を喜ぶのだろう
生きてあることを喜びとせず
一体何を喜ぶのだろう

あなたは何を喜んで笑っているのか
生きることそれ自体が喜びなのだと
教えてくれているのだ

わたしがわたしであること
あなたがあなたであること
すべては
生の喜びに満ち溢れていて
それをあなたが
身をもって教えているのだ

受け入れがたいすべてを受け入れ
信じがたいすべてを信じ
そのすべてを喜びとしよう
ただ生きてあることの喜びとしよう

あなたも
わたしも
ただ生きてさえいればよいのだ






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/16

話す

たったひとつの言葉をさえぎられて
病んでしまうのはわがままでしょうか?
伝えたい言葉を飲み込んで
胸はいっぱいで
心が傷ついて弱り
どこにも行けなくなったので
心に旅をさせることにしました

気ままに自由にどこへでも
心よ
わたしの心
行っておいで

でも
飲み込んだ言葉の消化不良で
心は重たすぎて
もたもたおどおどして
どこにも行けず
うろうろするばかり

空想も
所詮言葉でできていたのです
話すことすらできません

いつも隣でうたた寝をしながら
ぴったりと寄り添ってくれている猫の子と
しばらく猫の言葉で話すことにしました

にゃふううん?
にゃにゃあああん

ふにゃああ
なああごにゃああああご

猫の言葉は簡単そうで
なかなかどうして難解で
猫はさもさも偉そうに眼を細め
仕様がない奴だというように
諦め顔の相槌をくれるのです

たったひとつの言葉をさえぎられ
病んだと思った心を
縛りつけていたのは自分です

にゃあああん
なああご
ああああご

大したことないぜ
大人猫の彼が諭します

猫と心と
旅をしました

どこまでもつづく猫草の草原を
草を噛み噛み歩きます
途中の気になるものはすべて
お行儀わるくクンクン嗅いで
日向を見つけてはしどけなく転がり
ごろごろごろ
そのまましばし惰眠をむさぼります

心がわたしにもどってくるまで
猫は一緒に旅をしました
空想はやっぱり言葉でできていて
わたしはいたく言葉に傷ついていたのですけれど
いつしか猫語が身について
消化不良は治りましたので
また人間らしく言葉を話せるようになりました

けれど心が弱ったら
天国の猫が教えてくれた
にゃにゃああああん
にゃふうううん
なああああご

猫の言葉と一緒に
心を旅にだすのです

またここに
元気にもどって来るように






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/15

食べる

食べることは命をつなぐことだと
一日三食を真面目に作って真剣に食べる
それで
何とか今日も健康を守れたというような気になるほど
頼りなくひわひわのこの体は
こうして自分で食事を三食作って食べるようになって
だいぶ丈夫になり
それが
むしろむしょうにさみしいことにも思われて

時々は母の手料理を
ちょっと真似してみる

得意料理がいくつかあってどれもオリジナルで
これが我が家の味と母はいつも自慢していた

いざ再現しようとすると同じ味にはけっしてならず
何やらやたらとしょっぱいか酸っぱいか
実際
母のもそうだったような気もするし
これ以上ないというくらい美味しかったような気もするし

味なんかどうだっていい
母が手をかけてくれたことが大事なことであって
だから
何ひとつ無駄にはできなくて

ある冬の終わり
ちょうど今時分だったろうか
母の料理をひさしぶりに食べた
年を取って家事が億劫になったと言う
無理して作らなくていいよ
わたしがするよと言うと
翌朝母は
まだ暗いうちから起きだして
何品かの料理をすでに作っていた

そのあり合わせの材料のお惣菜は
以前の母の味とはあきらかに違って
ぼっさりと薄味で
やけに油っこかった

その油っこいお汁の最後の一滴まで飲み干して
おしまいには
なぜだか空っぽの器さえもいとおしくてならず
思わず
おしいただくようにして手にかざし
こくりと頷いてから
テーブルの上に置いた

母が笑った
けらけらと声をたてて笑った
大袈裟だと
さも可笑しげに
そのわたしの所作を笑った

そんなによろこんでもらったって作り方はおしえないよ
と母は言う

内心ひやりとしながら
どうして?秘密のレシピなの?
と聞くと
食べたくなったらいつでも家に帰って食べればいいから
絶対おしえない
と言う

母の眼がきらきらしていた

そうだねホントだ
そうするね
とわたしは答えた

それきり
母が病に倒れるまで
わたしは家に帰らなかった

あのぼっさり薄味の油っこい料理が
本当に最後の母の手料理になってしまった

それなのに
薄味で油っこいという記憶だけで
何の料理であったのかすら思い出せない
母はいつも
家族に合わせて味を変えた
家のみんながよろこぶことが母のしあわせだった

遠くに住む娘は薄味を好むと
思い出してくれたのだろうか

二度と食べることができないと思うたび
あの最後の手料理の
薄い味と油っこさだけが舌によみがえる
食べることは生きることだと
命をつなぐことだと
一日三食きちんきちんと仕度してくれることで
日々無言の教育をしてくれた母の
その思いをいっしょに
今日も食べる

わたしがしっかりと食べる時
母もおなじように
まだ自由の利く右手を器用に使って
しっかりと食べていてくれるのだと自分に言い聞かせて
今日もわたしは
かつて母がしたように
一日三食食事を作り
真剣に食べる

食べることは生きること
命をつなぐこと
母の命がすこやかに
今日もつながるようにと願い
今日も
わたしは食べるのだ






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/14

待つ

こころしずかに
夜の明けるのを待つとき
驚いた声で犬が吠える

卑怯な鳴き声だ
さらに弱い犬を吠え立てる卑怯な犬
あの犬もわたし同様に
あとわずかの夜を惜しんでいるのか

夢うつつの布団のなか
懐に眠っていた猫の子のぬくもりが
はっきりと残っていた

あの聡い無心な命が
いまだここにいるかのように

犬の声に
怯えないでおくれ
この懐に安らかに
いつまでも眠っていておくれ

お前は車に轢かれて
惨たらしい姿で道端に落ちていた
微かな苦しい息で
わたしを待っていた

あの朝も
犬は吠えていた


わたしは走った
信号を幾つも幾つも通り過ぎて走った
瀕死のお前を懐に抱いて

夢なのだろうか
お前に名前をつける日を待ちわびたあの時間は
もうお前はとうに天国へ行ってしまったのに
もうずっと
ここにお前はいないのに
傍らに
あのちいさな寝息とぬくもりがあって
お前の名前をわたしはまだ考えている
幾度となく
そこで目覚めるのだ

かなしみでもなく
さみしさでもなく
不思議に
なんとも言えぬ穏やかな気持ちで

冬芽もまた
重くつめたい雪の下で
ほんのり熱をおびた土に守られて
春の夢を見ているのだろうか
こんな寒い雪の朝にも

踏みしだかれ
ことごとく弱り果てたちいさな種の
ひとつは
お前のように健気に微かな息をして
雪の下のあたたかい土にひそみ
昏々と眠っているのに違いない

闇が消えていく
あの卑怯な犬のようにわたしも
吠えてみようか
薄暗い寒い朝だ

夜の明けるのを待っている
拾った猫に名前をつけるときのように
はらはらとして
心はすこし弾んでいく

夜が明け
また夜が明け

お前が待ちわびていた
春がまた
やってくるのを待っている






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/13

見つめる

あなたはすこし
泣きそうな顔をしてこっちを見ていた
いつもわたしを見送ってくれたあなたの
晴れやかな笑顔ではなく
やけに気弱そうにして
こちらの様子を窺っている

銀の髪は
白く整った顔立ちにやさしく溶け込んで輝いた

あなたはまるで
老女に封じ込められた少女のような瞳で
きょとんと
しかし一心にわたしを見る

探る眼だ
わたしが一体何者かを
あなたは必死に探っている

みぞおちあたりがひりひりとした
こちらも必死になって眼を見開いて
あなたを見つめる

その表情の翳も光も
その眼差しの絶望も希望も
ただのひとつも
見逃すことがないように
注意深く
そしてどこかでは畏れながら
じっと眼を凝らして見つめていた

幼子のようにあなたは泣く
かと思うと
急に笑顔になり
がんばる
と言う
また突然に
疑わしそうな顔をして
わたしを訝しむ

白く小さな顔の生気は
たちまち満ちては頬を上気させ
すぐさま潮のように引いて
あなたを蒼白く憐れに見せる
慌しい繰り返しに疲れ果て眠りこけたあなたの
痩せた腕やあしをさすりながら
わたしも夢でも見ているようになって
心地よい睡魔に襲われるのだ

子供の頃には握った記憶もない
その白い細い手を
そっと握った

手は
わたしのものだった
たしかにいま
この手は
わたしだけの手だった

あなたが最も喜んでくれたこと
わたしの書いた詩が
つまらぬ賞を貰った遠い記憶がよみがえった
それから
またこんなつまらない言葉をつなげているのだ
あなたにはもう
届かないけれど

いつかあなたに
褒めてもらえる子供にもどり
そのあたたかい胸に抱かれるその時まで
屈折した心根を悪戯するだけの
こんなつまらないものでも詩にして
また書いていく
そう決めたら

あなたに近づいた

かつて我が事のごとく
わたしの夢をいっしょに追いかけてくれたあなたが
またわたしに近づいた

あなたはまだ
少女の眼をして
はにかんだように微笑み
わたしを見つめていた






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/12

祈る

果たせなかった約束がいくつもあって
幼く残酷な感情に流されては
裏切りの言葉をいくつも吐いた
それなのにいつまでも消し去れぬ感傷がわいてきて
そのみっともなさに自分でもどうしようもなく
生き直そうなんて誤魔化していた

吐きだされた言葉の
ただのひとつだってもとにはもどせないから
一生のぬくもりを失った後悔なんて
いまさらしょうがないことだから

せめてもう一度
あなたを傷つけた言葉を詫び心に何度も反芻して
自分のどうしようもない愚かさを抑え込ませていた

言ってはならない言葉はやがて
聞きたくはなかった言葉となって自分に返ってくるのだ
いつまでもどこまでも
わたしを追いかけてくるのだ

確かなことは何ひとつないから
今日もあの日のことを考えている
もしもあの場所から
たったひとりで立ち去ることがなかったら

もどせるものは何ひとつないのに
未練がましい感傷が堂々巡りをする

明日は特別な日だから
その力を借りて
あなたに謝りたい
謝ったところで何ひとつ取り返しはつかないのだけれど
どうしても謝りたかった
明日は特別な日だから

持てるものは
持てるうえに与えられる

もしわたしという貧しい者が
何かを与えられる機会に恵まれていたとしたら
それはあなたがずっと
わたしを見守ってきてくれたということだけであったのに

明日は特別な日だから
消化できず悲しみの吹き溜まりとなった
この薄汚い心の隅々まで
すべて掃きだしてしまおう
一日は今日を限りと生きるべき大切な時間だから
もうただの一秒も取り返すことはできないから
明日という特別な日を
ふたたび一生の後悔としてしまうことのないように
あなたに伝えなくてはいけない
この気持ちを

ゆるされることは何ひとつないから
ただ一心に祈る
あなたを傷つけた言葉は
わたしにもどってきて
わたしを今日もこうして生かしている
良心と平静を取りもどす枷となって
あなたのように
今もわたしを見守っている

明日は特別な日だから
いつかあなたに届けるための言葉を
明日から育てよう
明日の朝目覚めるまでに
まっさらな心になって
また感謝の一日から始めよう

そうして
あなたとあなたの大切な人たちの心が癒されるように
平和が訪れるように祈ろう

ゆるされることはないのだけれど
知ってはいるのだけれど
どうしても謝りたかった

明日
せつなく巡り来た
わたしたちの特別な明日に






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/11

憧れる

胸の奥に苦しくも
浮かれ行くような
恋するときの思いに似た
落ち着かない心持ちがして

いまかいまかと
待ち望むものがある

こころもとないこの思いに
突き動かされ
あさましく踵を返し
逃げ込んださきにも


満開の桜

咲き誇る一瞬に
わたしを取り込み
儚い夢に酔わせる

幾千もの幾千もの
淡き紅のちいさな蝶が塊となって
飛び立つように消え行く

その花びらに埋もれて
わたしも眠りたい
ちいさな花びらの一片となって
風に飛ばされ
どこか知らない草のうえに眠りたい

春にこがれ待ちわびた
愛しい人の思いを抱いて
いつか
かるくかるくなって
あの夥しい花びらのうちのたった一片となって
ちらちらと散っていきたい

前を向いていこう
春を憧れ
春を待ちわび
桜のように

ただひたすら
前を向いていこう






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/10

仰ぐ

おやすみなさいが言いたくて
月をさがして
墨色の空を仰いだ

月は隠れて
星も見えない

あなたもどこかで
こんなふうに
夜の空を仰いでいるだろうか

皮膚の深くにしみ込む
重く冷たい雪が降ってきた

おやすみなさいが言いたくて
夜のしじまを
ひとり歩いた

春はもうそこなのに
雪は降りつづく

すれ違う人は皆
明々とした家の戸口に吸い込まれて行く

誰かはきっと
愛する人の待つところへと急いでいるのだろう

ただおやすみなさいが言いたくて
空を仰いだ
一面の暗黒

無数に降ってくる雪は
白く白く
容赦なく
わたしを包囲し
どこまでも際限もなく降っていた

月も星もなく
しぐれは顔を濡らしたから
そっと泣いてみた

雪は無数に
わたしをめがけて降りつづいた







猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/09

贈る

贈り物があります

一生分の勇気を
まとめてあたえてくれた
たった一度の

ありがとう
そのありがとうの力のおかげで
こうして
わたしは書いています

贈り物があります

くじけそうな時
はっきりと
耳もとで響く

がんばれ

その励ましで
これからも生きていけます

最後の誕生日に
わたしが贈ったのは
ありがとう

ありがとう

ありがとう
何度でも言い尽くせない
ありがとう

今はじめて
と前置きして
照れくさそうに言ってくれた
ありがとう

最後に
と声をしぼりだして

がんばれ!
と泣き笑いした父

ありがとう
がんばる

泣いていたけど
わたしも笑った

なんだか可笑しくなって
二人で笑った

みんなで
うつらうつらしているあいだに
こっそりと
旅立っていこうとしていたのに
気がついてしまってごめんね

最後の最後まで
しつこいくらい
やさしくて
どこまでも父らしかった

そちらはいかかですか?
でもきっと
今も隣にいてくれてるよね?

今日は東京も雪
でも
もう寒くはないのですね
もうどこも
痛くはないのですね

あれから
もうすぐ一年が過ぎます

ありがとう
がんばるね






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/08

捨てる

ある時
突然に捨てたくなる
なにもかも余計で
なにもかも邪魔

いらない
いらない
なにもいらない

叫びだしたいくらい
いらない

部屋がちらかっている訳でも
誰かに追われている訳でもなく

いてもたってもいられない
もういらない

夜逃げするかわりに
失踪するかわりに
闇に逃げ込むかわりに
死んじゃいたくなる前に
捨てまくる
捨てて捨てて捨てまくる

悩むことなく
迷うことなく捨てる

最初は洋服
ここからここまで
この空間が空っぽになるまで
それから鞄や靴

食器 本 人形や縫いぐるみ
飾ってあるものは全部
さらには大きな家具はみんな
いらない
いらないものだらけ

心が貧しいのは
溢れるもののせいではないのに
空っぽの心に気づいてしまうと
ものが忌々しくて仕方ない

生きなおすためには
捨てるしかない
うつろな心を救いだすためには

おしまいには
とうとう日記も捨てた
十数年の重たい心の蓄積は
大量のノートの固まりになって
押入れのなかに封印されていた

シュレッダーもすでに捨ててしまった後だった
ひたすらひたすら
手でちぎる
ちぎってもちぎっても
バラバラにした日記のページは高く積まれている
そのまま捨てる勇気はなかった
捨てようと決意したことを後悔するくらい
迷宮に落ちる

どツボにはまった

指が腫れ上がり手首がかたまり
手がまともに動かせなくなってもちぎった
ちぎってちぎって
夜明かしした
丸二日かけて
日記の山を破り捨てた
いっしょに
書きためていた文章も詩も捨てた
完全に捨てて
書くこと自体もやめた

かたちあるものを失って
自分が消えるなんてことがあったら
それはそれですごい楽なことだけど
そんなことない
たかがものに過ぎず
たかが日記に過ぎなかった

何のために捨てるの?
聞かれてもわからない

きっと
目には見えないものを
しっかりと考えるため
目には見えないものを大切にするため

しんなことも所詮あとづけで
捨てたい衝動は
生きろという
心の奥の存在からの啓示なんだろう

もっと
自分らしく生きなさい

そぎ落とせないものだらけ
余計な迷いだらけ
こうしてだらだらと
書きっ放しにして

あなたに手渡す

ごめんね・・・

捨てて捨てて捨てられないもの
いつか見つけるために捨ててきた

軽くもなってはいないし
どツボはまだ
つづいているかもしれない
でも
今日も生きている

ありがとう






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/07

求める

不用意に
眼の前の空に
虹かかかったのは
心が決まった後だった

湿った雪が止み
風も止んだ
東の空に
あざやかな虹

虹に向かって
ひたすら歩いた

母のいる方へ

こういう
偶然になぞらえるだけの
あやふやな運命を
変えているのは
一体誰だろう

決めたつもりの心は
もう揺らいでいる

欲しいものは何もなかった
ただ
安らぎと
深い眠り
つよい心が欲しかった

いつの日か
この虹のように
跡形もなく消えていく存在の自分が
永遠を求めている

地の果て
海の果て
空の果てまで

朝も
昼も
夜も

あらゆる命のうえに
平和があることを求めている

真に平和を求めるのなら
もう迷うのはやめよう
悩むのも
苦しむのも
恐れるのもやめよう

平和であるためには
怒ってはならない
妬んではならない
憎んではならない
恨んではならない

そうして
どんなときも
笑っていなくてはならない

突然の虹のように
偶然か運命かと考えることもなく
自然のままに身をまかせよう
歩きつづけて
疲れ果てたら
綿のように眠ろう

不用意に虹がでたから
あの虹の向こうに行こうと決めた

求めている平和は
本当はもっと
ずっと簡単なことなのかもしれなかった

虹を見上げた誰もが
美しいと感じ
いつでも
隣の誰かに
そう伝えられるように

願いながら
どこまでも歩いていた






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村 

2017/02/06

よそおう

汚れたものは
みんな
ここにあるから
透明のクリームを塗るのです

濁った色をみんな
浄化してくれる
光の色が必要なのです

光と水と
ルチルのクオーツで
光のクリームをつくります

醜いものは
みんな
ここにあるから
無心にものをつくるのです

卑しい気持ちをみんな
消し去ってくれる
風の衣がほしいのです

麻と真綿と
木の実のボタンで
風のコートをつくるのです

よそおうことは
みんな
とても不自然なことだから
自分を戒めているのです

罪を覆い隠す
重たい荷物をみんな
ひとつずつ
ひとつずつ
捨てていくのです

暗闇に
一筋の光が射して
また
朝が来て
希望とともに
目覚められるように

その輝きを
身に着けたいのです

やがて
時がみちて
天国の猫たちに
迎え入れられる
その時まで

光と風と
希望の輝きで
よそおいながら
生きていたいのです






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/05

引く

まずは一本 
線を引く 
スケールなんか要りません
震える手でもだいじょうぶ

ラフスケッチも顔負けに
重ね重ねの 
よれよれで
途切れ途切れの線だって
やがてどこかで つながれば
それはそれでも良いのです

そこからつくる洋服は 
旅の風にも負けないで
やさしく誰かを包むでしょう

まずは一本 
線を引く
分かつためではありません 

つなげるために引くのです 

すべてはそこから始まって 
みんなそこからつながって 
つくれるものもあるでしょう 
うしなうものもあるかしら?

あなたの力があるでしょう 
わたしの力もいるかしら? 

たどたどしくて 
もどかしく
見えない先を気に病んで
投げ出したくもなるでしょう 

それでも一本 
線を引く

できないことではありません 
分かつためではありません
夢をかたちにするために

星の鎧を着るために

いつかかならず言えるでしょう
心の底の底の底 
ありがとうって 
しぼりだす 

もらえる言葉もあるでしょう
胸の深くにしみるでしょう

いまは一本 
線を引く

今日も一本 
線を引く

ここからすべてが始まって
今日も歩いていけるでしょう

かなわぬ夢もあるでしょう
見つかるものもあるかしら?
今日も一本 
線を引く

誰かの線とつながって 
道はつづいていくでしょう

泣いてる人もいるでしょう
かける言葉はあるかしら?
なくても隣に居りましょう 
肩をさすってあげましょう

今日も一本 
線を引く
 道はつづいていくでしょう

細い線でも繰り返し 
幾度も幾度もなぞります
気に入るように引けるまで

逸る鼓動の後押しと 
誰かの言葉にはげまされ

道はつづいていくでしょう
一本つづいていくでしょう

いつかかならず大切な
あなたの道となるでしょう

一本 線をつなげたら
忘れた夢に会えるでしょう

夢は変わらずあるかしら?
あなたは変わらずいるかしら?

だから一本 
線を引く
分かつためではありません

夢につなげる 
線を引く

飽きずに今日も 
線を引く






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/04

忘れる

あの日
おなじことをしていた
そそくさと 
あわただしく鞄に荷物を詰めて
後ろも振り返らず
立ち去った

そうだ
あの日も
こんな雨の降りそうな寒い日だった

言わなければいけない沢山の言葉があった
本当は 
こんなことしたくはないのに
本当は
ちゃんと話し合いたいのに

あの日のように
自分のなかの
歪んだ正義みたいな
さびしい気持ちに突き動かされて
こんなふうに 
あたふたと
逃げ出す準備をしていた
あの日も

あの日 
あなたもわたしも 
おんなのこでなくてはいけない理由なんか
どこにもなかった

あなたの前では
わたしは惨めな敗北を味わう
胸苦しさに 
わなわなと手が震える

それは 
自分がまるで
拾われた瀕死の猫みたいに
ずぶ濡れで命乞いをしているかのように 
居心地がわるかった

だからと言って
逃げ出す理由にはならない
わるいのは無残な過去
かたちばかりの
しあわせのまぼろしであって
あなたではないのに

ただの一言も言わずに
わたしは あなたを置き去りにした

自分を憐れむ 育ちきらない自分という盾を
後生大事に振りかざして
幾度も こうして
逃げだしてゆく
忘れるはずのない こころの痛みを全部
だれかに投げだして
わたしは忘れてゆくのだ
きっと

忘れて 
忘れて忘れ去って
薄ぼんやりした脳味噌になって
笑って暮らすのだ

あの日
わたしが傷つけたのは
あなたであったし 
わたしでもあった

そうして 
逃げて逃げて 
逃げまくっても
忘れたふりで幾晩眠ったとしても
かならず傷ついた脳味噌が起きだしては
また胸苦しい居心地のわるさで 
居たたまれず
またどこかで
逃げだす準備を始める

あなたは
濃紺のジャンパースカートを着ていた
手を振って
わたしを見送った

忘れるはずのないことを
忘れようとして
あれから
ずっと 
あなたを探している

あの日
あなたもわたしも
ちいさなおんなのこだった




猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2017/02/03

縫う

みがき込まれた古い階段を上っていくと
二畳ほどの踊り場があった
天上近くの大きな窓から日が差し
階段突き当たりの
屋根上の洗濯干し場へとつづく
上半分ガラスがはめ込まれた扉からも
あふれんばかりの日差しが差し込んでいた

晴れた日は
温室のように暖かなこの空間は
母のミシン部屋になっていた
使い込まれた足踏みミシンの音はいまだ軽快で
母はいつも
わたしたち家族のためになにかしらの縫い物をしていた

まるで魔法のように
一夜にして仕上げられる洋服もあった

夜通し鳴り止まぬミシンを踏む音
夢うつつに心地よく
時々目覚めては
胸が躍った

木製のミシンのテーブルの引き出しには
色とりどりのミシン糸と
丸っこい車輪のようなボビンに巻かれた糸とが
色見本のように整然と並べられて収まっている
こっそりとそれらを見るのが
わたしは好きだった

絹糸の光沢ある色彩は
整列して出番を待つ
その秩序が
華やかな色味をいっそう際立たせ
そのひとつひとつが
どんな生地に使われるのかを想像しては
母の目を盗み
ミシンの前を陣取って
飽きずに眺めるのが
わたしの日課だった
時にはミシンをから踏みして
縫う気分を味わい
ひとり悦に入った

母が縫う人となるのは
決まって夜
皆が寝静まる頃

ある夜
たったひとりで
母はミシンも前に座っていた
ミシンの上に生地はなく
母の手もとには手紙のような紙が握られていた

寝ぼけまなこで
母を呼ぼうとした瞬間
母が泣いているのに気づいた

あわてて寝床にもどったわたしも
むしょうにかなしくなった
泣いている母の横顔は
絹糸のように蒼く光っていた

猫が
布団にもぐり込んだ
猫は腹に子をもっていた

子猫のように
グルグルと喉を鳴らして
涙で濡れたわたしの頬を
しばらく猫は舐めた
重い腹をわたしにすり寄せながら

それから
ゆっくりと母のほうへ
猫は消えた

わたしは泣きながら
また眠りについた

夜が明けると
部屋の鴨居に
小花模様のドレスと見まごうばかりの
寝巻きが掛けられていた

一面の花畑のようなその寝巻きは
忘れていた約束を
母が果たしてくれたものだった

「これネグリジェというのよ」

微笑んで母が言った
わたしは
どきりとした

母の大きな瞳が
深いみどり色であることを
初めて知った

その日
家猫は子産みのために
いなくなった

腹を撫でてやればよかった

ながいこと
わたしは後悔した






猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

迷う


起きた瞬間から
迷う

すぐに起きだすべきか
もう少しまどろんでいようか

足もとで湯たんぽがぬるむ

朝の音が聞こえる
大型車が走っていく
弱々しい鳥の声
遠くに犬が吠える
湯たんぽよりもぬるい自分

きっぱりと起きる
そういう人間になるのだ
毎朝そう誓う
明日は
明日こそは

まどろみに逃げないで
自分に逃げないで
病気に逃げないで

言い訳ばかり数珠繋ぎにして
まどろみのなかに逃げる

たった五分の迷いに逃げる
猫のように優柔不断に

迷えるってことはしあわせなんだ
誰かが言ってた

不眠症の手のかかる子供だった
母が言った

そこから延々とつづいている
いやな儀式
重たい体がまた沈み込む
睡眠に満足を得られない
いやらしさ

夜泣きす赤子をねんねこ半纏でおんぶして
真夜中に
鉄道の駅に向かって歩きつづけた母

暴れる赤子を背負って歩くには
遠い遠い道のり
母はなにを思ってそこに向かっていたのだろう

母の迷い
何度も何度も迷って
迷った挙句ふたたび苦しみを選んで
わたしが生まれた

そして
母の心に闇がしのび込んだ

線路沿いに
迷いながら歩いていた母の背中で
どうしてわたしは泣いていたのだろう

母の悲しみを吸い取るようにして
真っ赤な顔で火のついたように泣いている
あの赤子は
まだわたしのなかにいるのだ


自堕落な一日の始まり
迷いのなかの祈り
わたしはこうして
のうのうと生きていて
ぬるい湯たんぽを抱いたまま
母のことを考える

母が
まだわたしのことを
憶えていてくれますように
苦しみを手放して良い記憶だけをつなげて
笑っていてくれますように

母の愛する人がみんな
一日を無事に
平和に過ごせますように

母の一日は今日も
迷いのない一日でありますように







猫の村にお越しくださり
ありがとうございます
ちからづけていただけましたら しあわせです
平和な一日でありますように 

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村